【パリ】猫ホテル、キャットシッター…私たちがバカンスを支えます!

まるで猫カフェ! 地震が(ほぼ)ない国で猫仕様の家具の配置は大胆

 

日本人から見るとびっくりするほどに家族の関係性が強いフランス人は、「家族と過ごすバカンスこそが生きがい」と異口同音に話す。

でも、ちょっと待って。家族に猫やペットは含まれていないの? バカンスにペットを捨てる人が後を絶たないフランスは、「ペット遺棄先進大国」という不名誉な呼び方をされる。

またコロナ禍の厳しいロックダウン期間は、飼いやすいと思われた猫や、散歩が外出の口実になる犬を動物保護機関から引き取る人が増えた。

しかしバカンスが解禁になると反動のように、遺棄数はロックダウン期間の引き取り数を上回り、いくつかの保護機関がパンクするという事態に陥った。

やっぱり、自然光。猫たちの生活リズムが整います

 

本誌108号で紹介した「LeMoustache Café(髭カフェ)」は、アメリーさんとアリスさん姉妹が2018年にパリ初の譲渡型猫カフェとしてオープン。

だが飲食業というサービスも大切な形態と、責任ある譲渡を両立させるためには、姉妹ふたりの一日を割く時間が半日から14時間にまで及ぶこともあったという(フランスの法定労働時間は週35時間で、残業への配慮はきわめて少ない)。アメリーさんが妊娠されたことを機に、猫を守るさまざまな方法を改めて検討した。

2022年にカフェをクローズし、同年9月に静かな中庭向きの物件へ引っ越し。猫たちが宿泊できる施設「Le Moustache Pension(髭の宿)」をオープンした。

パリで初めて猫のためのホテル「Aristideアリスティド(本誌76号に掲載)」がオープンしたのは2014年。その後は1軒しか宿が増えない中、コロナ禍が収束したタイミングで3軒目となった「髭の宿」に追随するように、2025年5月現時でパリにおける宿は7軒と急増している。

取材時はオフシーズンでした。個室と大きな部屋を独り占めする猫

 

 

「猫カフェは、お家に例えるなら多頭飼いです。多くの猫を、可能な限りストレスなくカフェへ迎えてきた経験が宿でも活かされました」というアリスさん。近年は見守りカメラの機能も向上し、飼い主はSNSなどを使ってリアルタイムで預けた愛猫の日々へアクセスできる。

「髭の宿」には、10匹前後の猫たちが過ごせる大きな部屋が2室と、2匹までの個室が10室ある。圧巻なのは、3メートルもある天井の高さ。「広さだけではなく、カフェと同じように猫にとっての十分な高さと、自然光を取り入れた間取りを優先しました」と姉妹は話す。

もちろん飼い主は、預ける猫たちが避妊や去勢、ワクチン済みを含め、ノミやあらゆる感染症がクリーンであることを証明してから宿の予約が可能になる。療法食の指定がない場合の宿泊料はゴハン代込みで、とても良心的だ。

アリスさん(左)。アメリーさんの息子ソラくんは(3歳)は、猫が好きではしゃぎます

 

いっぽうで、キャットシッターも再評価されている。飼い主、キャットシッター、さらにはキャットシッターになる基準までをも明確にしているのが、飼い主とペットシッターを繋ぐプラットフォーム(PF)。

PFという概念がなかった2009年から、獣医師であるオリヴィエ・トンデュソンさんと、動物のあらゆる行動を熟知したルノー・オーベールさんが立ち上げた24時間運営ウェブ「Animaute(アニマート)」は、フランスの「バカンスのためならペットを捨てる文化」を、培ったネットワークで変えられることを示すPF界のリーダー的存在だ。

アリスさんが指さした高い場所にも、猫がくつろいでいます

 

飼い主は自宅との近さや、猫の特徴、留守の期間などをウェブにあるフォーマットに沿って記入していくと、条件に合うキャットシッターを見つけることができる。宿では対処できないケースとしてアニマートは、おもに以下を挙げている。

・部屋の広さ(宿によってはケージ暮らしが多い)
・移動や知らぬ場へのストレスや、病気や感染症を患う猫
・とくに夏のバカンスシーズンは、部屋数が限られているので早い時期から満室
・急な予約
・価格(一般的に、キャットシッターの方が安い)

Animauteのトップ画像。飼い主とキャットシッターを繋ぐ方法は、とてもシンプル。Animauteの本拠地はフランス南西部シャラント県にあるソルゴン地区

 

PFを構築したオリヴィエ・トンデュソン(左)と、ルノー・オーベール

 

アニマートのプラットフォームで迅速に対応できるキャットシッターの登録数は、パリだけでも2,000人を超え、フランス全土には2万人が待機している。

家族を捨てるバカンスなどは意味がないのだから、フランス人の道徳や倫理が問われている。
バカンスを支える人は、増えつつある。

(文・写真 堀晶代)

Le Mous tache P ension
128 boule vard Macdonald 75019 PARIS
https://www.lemoustachepensionparis.fr

Hori Akiyo
日仏を往復するワイン・ライター。著書に『リアルワインガイド ブルゴーニュ』(集英社インターナショナル)。
電子書籍『佐々木テンコは猫ですよ』がAmazonほかネット書店で好評発売中。

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