文・写真 小森正孝
福岡県北九州市に「一宮(いちのみや)神社」があると聞いた。愛知県だが「一宮市」に住む私は親近感を覚えた。
一宮神社は、江戸時代に上方への渡海船が発着する港を持つ宿場町として黒崎宿が栄えた辺りに鎮座する。戦前戦中にかけて王子神社に大歳神社と諏訪神社を合祀(ごうし)したのを機に、古来郷土の崇敬を集めた王子神社が「一宮」と呼ばれていたことから現在の社号に改められた。
三社の歴史は古いが、特に王子神社は古事記の時代に遡る。
鳥居を潜って、左手には祭神でもある神武天皇が東征の際に祈祷したと伝わる遺跡。さらに階段を上ると拝殿に行き当たった。その賽銭箱のそばでキジトラの猫が毛繕いをしていた。初対面なのにすり寄ってきてくれた。お参りを済ませて授与所に行くと、別の猫が受付のガラス越しに境内を見つめていた。
「ここにはチーコとチーボのきょうだいが暮らしています。今まで猫を飼ったり、境内に猫がいたことはありませんでした。ある日、本殿の床下で母猫が5匹の子猫を生みました。3匹は里親が見つかり、チーコとチーボは私たちがお世話をすることになりました」と禰宜(ねぎ)の波多野正紘さんが教えてくれた。
今では2匹目当てに訪ねてくる参拝客もいて、御朱印帳や御朱印には2匹をデザインしたものもあるとか。
正紘さんは拝殿で音楽祭を催すことがあるほど音楽好きでもある。
「アルベルト・シュヴァイツァーは『人生の惨めさから抜け出す唯一の手段は音楽と猫だ』と言いましたが、この神社にはまさに両方揃っています」と笑顔で話す。
ある時は駐車場に出迎えに行って参拝客を拝殿まで案内し、ある時はお参りを邪魔しないように足元にスリスリと甘え、またある時は御朱印を待つ人に撫でられるがままになる。接客が一段落すれば写真を撮らせてくれる。本当によく働く猫たちだ。
授与所が閉まる頃、境内には音楽祭の練習の音が響く。忙しい一日を終えて思い思いに過ごす2匹を見ながら、「神様から預かったご縁だと思って、この子たちは大切にします」という正紘さんの言葉を思い出した。
一宮神社
福岡県北九州市八幡西区山寺町12-30
TEL 093-641-2865
Instagram:ichinomiya_jinja
Komori Masataka
1976年生まれ、愛知県一宮市出身。大阪芸術大学写真学科卒業。同大学副手として研究室勤務。現在フリーカメラマンとして猫撮影を中心に活動。「2025年 招福お猫様カレンダー」(アート・プリント・ジャ
パン)発売予定。
HP:https://komorimasataka.com/home