神様・仏様・お猫様 神社仏閣の猫 第19回 愛媛県「真言宗醍醐派 熊野山妙見院 八坂寺」松山市

極楽橋でお遍路さんを歓迎するチャチャ

日本の山岳信仰には長い歴史があり、四国にも山伏たちの修行場が多くあった。
八坂寺は修験道の開祖・役行者小角が飛鳥時代に開山し、大宝元年(701年)に文武天皇の勅願所として大友山山頂に七堂伽藍が建立されたとされる。

チャチャのいる極楽橋を渡るだけでいいことがありそう

中世には紀伊国(和歌山県)の熊野権現から十二社権現を分霊して祀り、熊野山八坂寺と呼ばれるようになった。その後も修験道の根本道場として栄えたが、戦国時代に兵火に巻き込まれ、現在の地へ移ったという。

山門の前には屋根がついた極楽橋が架かっている。ここでは上を見ると壮麗な天井画の仏様が、前を見ると長毛の猫が迎えてくれた。

奥の中庭は憩いの場所。塀の上もお気に入り

納経所の前で扉が開くのを待つチャチャ

「この猫はチャチャ(8歳♀)といいます。8年前に5匹の子猫を保護して3匹をよそに譲り、昨秋亡くなったチャコとこの子を寺で飼うことにしました」と住職の八坂善教さん。近隣には昔から猫が多くて猫寺として親しまれてきたという。

寺は松山市南部の閑静な田園地帯に建つ

本堂から漏れる読経の声にあくびを漏らす

「癒しを求めて四国八十八ヶ所を回るお遍路さんは、当院の猫を見て心が和み気持ちが楽になるのだと思います。また、今まで寺院は敷居が高いと思われていた若い世代の方々にとっては、猫に会いに来て、寺院を知る切っ掛けになったのではないでしょうか」
と笑顔で寺猫の存在意義を語る八坂さん。

境内を散策していると納経所の前でチャチャが屋内の様子を見ていた。参拝客が扉を開けると可愛い声で鳴いて素早く侵入するものの、職員に「ダメだよ」と言われてすぐに外につまみ出される。それが日課らしく、飽きれば居心地よい場所を探しに歩き始める。

仏の教えを象徴する蓮の花にチャチャがいっそう美しく映える

ひっきりなしに訪れる日中の参拝客は、チャチャを見つけるとみんな笑顔に。
職員が境内の清掃に出かけると追いかけて、手元にすり寄っては撫でてもらっていた。そうかと思えばお遍路さんの読経を子守唄がわりに本堂で昼寝をしていた。

「鎌倉時代は12の坊と48の末寺を束ね、僧兵を抱える大きな寺でしたが、時代とともに繁栄と衰退を繰り返しながら縮小し、廃仏毀釈によって今の規模になりました」と、住職の八坂さんが寺の歴史を教えてくれた

境内を堂々闊歩する

夕方、階段を下り山門に向かって帰路に就くと、チャチャが中庭から現れ「ご苦労様」と言っているように鳴いて極楽橋まで付き添い、仏様と一緒に見送ってくれた。
時折後ろを振り返ると、いつまでもこちらを見ている。「また来なさい」と言われているように思えた。

蓮の彫り物を背に一休み

真言宗醍醐派熊野山妙見院
八坂寺
愛媛県松山市浄瑠璃町八坂773 TEL089-963-0271
Instagram:yasakaji

小森正孝(写真・文)
1976年生まれ、愛知県一宮市出身。大阪芸術大学写真学科卒業。同大学副手として研究室勤務。現在フリーカメラマンとして猫撮影を中心に活動。写真集『ねころん』(株式会社KATZ)等。
HP:https://komorimasataka.com/home

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