【香港】迷い猫が繋ぐ先生と生徒の絆

高貴な雰囲気の信信。元から外猫だったのではなさそうだ

今年の4月、暴風雨の夕方に中学校付近の草むらで迷い猫が保護されました。迷い猫を見つけて保護した韋(ワイ)副校長は、「愛護動物クラブ」の顧問であり、生徒達と動物愛護団体を訪れたり、日頃から学校周辺の外猫達に餌やりボランティアをしている大の猫好き。その日も普段見かけないずぶ濡れの迷い猫にすぐ気がついて、他の先生に協力を仰ぎ捕獲したそうです。その話を聞いた尹(ワン)校長もまた動物愛護に理解があり、猫を校内で保護し、生徒とともに飼い主を探す等の活動を全面的に支持したのでした。

信信を保護した当初の韋副校長と愛護動物クラブ員

それから、迷い猫は「信信(ソンソン)」と名付けられ、学校をあげて周辺や校内での聞き取り、SNSでの捜索が行われたのですが、飼い主や心当たりのある人は見つかりません。動物病院でもマイクロチップの装着や登録を確認できず、飼い主探しはあきらめて学校で世話を続けることに。なんと、信信の部屋は校長室。餌や水、トイレとともに猫じゃらしや猫タワーまで用意されて、生徒の出入りも許可されました。

生徒達は自由に信信と触れ合うことができる

「生徒達が信信を通して、小さな命を守り育むことの大切さを学ぶことは、学校教育の中でもとても有意義なことで、校長室がそんな場所になるなんて素敵じゃないですか」と笑いながら話す尹校長は、校長室を訪れる生徒達との交流も深まり、また教職員とのコミュニケーションも増えたと言います。

「有志の教職員でグループを立ち上げ、信信の世話をするサポートをしています。普段はあまり話したことのなかった人も実は猫好きだったと知って親しみが湧きました」。韋副校長も、信信の存在が学校全体の連帯感にも影響を与えていると感じていました。

愛護動物クラブは、信信の近況を校内で報告している

実は、信信は6月に行った避妊手術の際の検査で、猫白血病ウイルス陽性と診断されました。衛生管理の行き届いた環境での生活が必要となり、現在は尹校長に引き取られ、先住ペット達と一緒に仲良く暮らしています。せっかく世話をしていたのに生徒達は学校で信信に会えなくなって寂しい思いをしているのでは……というご心配は無用です。「愛護動物クラブ」が、その後の信信の健康や生活ぶりを校内で報告したり、尹校長が時々信信を学校に連れてきて、校長室を開放して生徒達が会えるようにしているのです。

尹校長を中心に、韋副校長と愛護動物クラブ員

授業を通してだけでは築くことのできない先生と生徒の連携が広まり、学校全体が信信を思いやる心で繋がっていることに感動しました。このかけがえのない絆を、生徒達が大人になってもずっと心に残しておいてほしいと願います。

尹校長宅では、先住の2匹の犬ともう1匹の猫とも仲良し

(文・塚碕由香/写真提供・韓思思、韋慕琹)

Tsukazaki Yuka
在香港歴26年のフリーライター。広東語で通訳、翻訳、日本語教師などもこなす。
著書に『香港の大スター☆クリームあにき』(辰巳出版)。

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