亀の軍曹(推定5歳♂)と、猫のもな(4歳♀ )、小雪(2歳♀)の亀猫トリオの珍しい日常がSNSで大人気だ。投稿された動画を見ると、なんと軍曹がスケボーに乗り、亀とは思えぬ猛スピードで小雪を追いかけているではないか! 軍曹の猫愛はとどまるところを知らず、もっと速く接近したいと、スケボーに乗ることを覚えてしまったのだ。
2022年夏、道のど真ん中に亀
「最初、道に岩が落ちていると思ったんです」。
飼い主の倉地さんは福岡の市街地をご主人と歩いていた。よく見るとその岩は動いている。まさか超常現象?!と思ったが、それ1匹の亀だった。交通量の多い道だったのでこのままでは危険だと亀を助けた倉地さん夫婦だったが、さて、これはどうしたものかと考えた。
この付近に池や川はない。ペットが脱走したのかもしれない。甲羅には傷があった。カラスの多い場所なので、どこかからカラスが咥えてきて落とした可能性もある。保健所に行くか、警察に届けるか。保健所の預かり期間は短く、期限が来ると処分されてしまうが、警察に届ければ遺失物として3ヶ月は保留になる。その間自宅で保護すれば飼い主が現れるかもしれない。倉地さんは保育園で亀を飼った経験があった。「警察で、クサガメは外来種なので池などに放さないでください、と言われたこともあり、いったん亀を自宅に連れ帰ることにしたんです」。
倉地さんのお宅には、当時2歳だった猫のもながいた。生まれて初めて亀を見たもなは「なんだこれは?」と不思議そうだったという。
倉地さんは亀をきれいに洗い、亀に多いサルモネラ菌を軽減するといわれているエサを与えながら、SNSで亀の飼い主探しを続けた。結局、3ヶ月経っても飼い主は現れず、亀は拾った倉地さんのお宅に正式に家族として迎え入れられた。
「亀がケロロ軍曹の顔に似ていたので、名前は軍曹とすることにしました」
なぜか、軍曹はもなに近づきたがり、もなを追いかけるようになった。全力で短い手足をバタバタと動かして猛ダッシュする軍曹。追いつかれそうになって逃げるもな。「軍曹は逃げるもなを追いかけるのが楽しいようでした」。
2022年ホワイトクリスマスの出会い
倉地さんの住まい近くの区域は地域猫活動に取り組んでいる。その中に、サッシ越しにもなに会いにやってくるハチワレ猫がいた。
「その猫のことはもなの彼氏と呼んでいたんですが( 笑)、その日は珍しくキジトラの子猫を連れてきたんです」
周辺の地域猫にキジ柄の猫はいない。どこからやってきた子猫だろうと抱き上げたら、体が異常に熱い。雪が降っていたその日は12月25日、倉地さんが発熱している子猫を動物病院に連れて行ったところ、猫風邪だった。インターフェロンを注射してもらい、2階に住んでいるもなとは別に、子猫は1階の部屋で世話をすることにした。名前は保護した日にちなんで小雪となった。
小雪の感染症検査が陰性だと判明し、もなは初めて子猫の小雪と対面した。「小雪は地域猫に慣れていたせいか、もなとの距離をぐんぐん縮めていくんです。もなはシャーシャー言ってましたが」。
1ヶ月後にやっと、もなと小雪は並んでサッシ越しにハチワレ君と会合するまで仲良くなった。
「自分、小雪が大好きであります」
小雪はもなと違って初対面から軍曹に興味を持ったそう。軍曹も追いかけては逃げるつれないもなの態度を悲観したのだろうか。軍曹が追いかけるのは、もなから小雪になった。猛スピードでバタバタと小雪を追いかける軍曹。追いついた軍曹と仰向けになって一緒に遊ぶ小雪。
ある時から軍曹が小雪の前足に向かって、振り子のように首を左右に振るようになった。SNSで亀に詳しい人から、それはクサガメの求愛行動だと教えられて倉地さんはびっくり。軍曹は求愛ダンスをするほど小雪にぞっこんなのだ。小雪も軍曹に応えるかのように、ひっくり返って前足を差し出すようになった。
また、小雪は、軍曹が網戸を上って落下した時には、にゃあにゃあ鳴いて倉地さんに知らせたこともある。軍曹と小雪は相思相愛なのだ。
猫愛がもたらした奇跡
軍曹の愛は追っかけを超え、並走するレベルにまで昇華した。SNSで話題のスケボーに乗り始めたのは、「海外に指スケボーに乗って走る亀がいるよ」と友人から聞いた倉地さんが軍曹にも試してみようと思い立ったのがきっかけだ。
指スケボーとは、スケートボーダーがイメージトレーニング用にも使うという、指で遊べる小さいスケートボードのことで、試しに軍曹を指スケボーに乗せてみると、最初は首も手足もひっこめていた軍曹だったが、すぐに弾丸スタートでフローリングを滑っていけるようになった。翌日には自ら方向転換ができるようになり、その動画はSNSで話題となり、軍曹と小雪は多くの人気を集めた。
スケボーからはみ出た手足で床を蹴り、瞬時に愛しの小雪の元へ移動する。追っかけからついに一緒に走るスピードを手に入れた軍曹。猫への愛は、本来のんびりとした亀の歩みに奇跡のハイスピードをもたらしたのだった。
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YouTube:アメチカンのもな
文・しんしゆか
写真・芳澤ルミ子