「先生」
何をしても怒らないし、何をしても教えてくれる母がいた。
チョビ母さん。
東日本大震災前の仙台に居た頃に出会った。
とある街中の神社のあたりで暮らしていた。
チョビ母さんには2人の息子、太郎と次郎が居たが次郎はトラックの荷台で昼寝してたらそのまま発車し、一時期行方不明になったが仙台の山奥で保護され暮らしている。
人慣れしているが触られるのが大の苦手でそれだけは許さなかった。
人間嫌いな訳ではない。
僕は猫との距離感、信頼関係の築き方をチョビ母さんから教えてもらった。
「こういう事をすると猫は嫌がるよ」
というのを体現してくれた。
それは他の猫にも同様に教えていてまさに「先生」だった。
ファンも多かった。
息子の太郎のイケメンっぷりもさながらチョビ母さんの面倒見の良さが人を惹きつけた。
息子の太郎は某コンテストで大賞を受賞するほど。
やがて仙台を離れる時が来た。チョビ母さんは人の心がわかるようで、最後の日、なんと特別に触らせてくれた。
最後の授業だろうか、教科「猫の触り方」。
少し照れているように「アオン、アオン」と鳴きながら触られながら、じっと僕の目を見つめた。
その目は少し悲しそうだった、と勝手に解釈している。
チョビ母さんと離れて10年が経った。不妊手術はしているので子供は期待できないが、相変わらず誰かに猫との正しい接し方を教えているのだろうか。
text&photo/Kenta Yokoo