ネコのとなりに [第13回]おうち

ネコは身近な動物で、ヒトの社会の中で暮らしています。そのため野生動物とは異なり周囲の環境も含め、ヒトがいてネコは生きていけると思うのです。ヒトとヒトの間に繋がるいのち。今を生きる友達として向き合いながら、街の中にネコのいる風景が時代は変わってもあり続けてほしいと願うばかりです。

写真・文・イラスト平井佑之介

近所の空き家にネコがいるらしい。周囲は暗くなってからも人通りが多く、電車の音が反響する街中で、ネコは人目につかないように声も出さずに隠れ住んでいた。

6月のある日から、ネコ好きご夫婦のお宅の裏庭に来るようになったと教えてもらう。キジネコの女の子で、ご夫婦の前に現れたとき「甲斐の山々〜♪」と武田節が頭に流れてきたことから、〝カイ〞ちゃんと名付けられ、少しずつではあるがふたりの前に顔を出すようになったそうだ。


▲ご夫婦の裏庭に遊びに来る“カイ”ちゃんの目が物語る

外で暮らす〝カイ〞ちゃんは、安心できる場所をいくつか知っているようで、夢中で甘えて遊んでいたかと思うと、パッとどこかに行ってしまった。あとをついていこうにも、その場所を知られたくないのか足早にいなくなってしまう。秘密の場所は気になるけれど詮索しないでおこう。

「〝カイ〞はとても懐こい性格だし、遊びが大好き。以前に飼われていた可能性があるね」と話すそばから〝カイ〞が立ち上がった! 人懐っこい反面、風や物音にとても敏感で俊敏に隠れたりする。


▲大胆に遊びまわる“カイ”ちゃんだが、気配や音に敏感で突然二本足で立ちあがった

長雨の夜など、いつもなら顔を出す時間になっても帰らない日が増えた。お母さんも「お家に入れてあげたいけれど、家にいるネコとの相性が悪くて〝カイ〞を追いかけちゃうの」と話す。

お父さんが〝カイ〞ちゃんの住む空き家に様子を見に行くと、小さな影が動くのを目撃した。それもひとつじゃない。なんと5匹の子ネコが息を潜めていた。〝カイ〟ちゃんはお母さんネコとして大事に大事に、いのちを守っていたのだ。5匹の子猫は保護され、ご夫妻の友人宅にそれぞれ旅立っていった。


▲小柄な“カイ”ちゃんをそのまま小さくしたような5つ子

半年が過ぎ、葉はうっすらと赤黄に染まり、朝晩はとても冷え込む季節になった。ご夫婦は年齢不詳な 〝カイ〟ちゃんに、「ソトネコ1年目の冬かもしれない」と小屋を用意する。試行錯誤の末に雨や風に負けないような素材を選び、ドキドキの瞬間! 気持ちが伝わったかのように、あっという間に小屋に入っていった。

今はというと〝カイ〟ちゃんはご夫婦の家で暮らしている。仲の悪い先住ネコとは住まいを分け、別室に当面の〝カイ〟ちゃんの寝床が作られた。「幸せ? お家の中でいいの?」とお母さんの日記には苦悩が綴られていた。正解は当ネコにしかわからないが、〝カイ〟ちゃんのことを話すご夫婦の笑顔と、元気いっぱいの〝カイ〟ちゃんがきっとその答えなのだろう。


▲お父さんのそばが大好き。お父さんのハンドパワーでどんなネコも転がる


▲どんなときも優しく包んでくれる


▲天真爛漫。いつも目の前のことに夢中

 
Hirai Yunosuke
いきもの写真家。1988年生まれ。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015優秀賞。島や商店街で暮らす猫から、イルカやヘラジカなどの野生動物も撮影。『Nikon D800 ネコの撮り方』電子書籍出版。

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