生まれて間もない赤ちゃん猫がやってきました!さっそくママ役を買って出たのは、ハッピーとさっちゃんでした。
4年前の初秋のこと。生まれてまだ2週間くらいの赤ちゃん猫がダムに持ちこまれました。
ノラ母さんが戻らず、一昼夜野ざらしにされていたのです。
哺乳瓶に小さなツメを立てて、むしゃぶりつく子猫の「生きようとするチカラ」に、麻里子ママは目を見張りました。
子猫は夜更けに持ちこまれたのですが、翌日は豪雨。危機一髪でした。
その夜、子猫に添い寝してくれたのは、さっちゃん。出ないおっぱいをまさぐる子猫のために、マヒした後ろ足を懸命に上げて迎えます。
子猫大好きのハッピーも、「いつでも交代するからね」とスタンバイ。
子猫は「ライム」というかわいい名を付けてもらいました。ダムの三毛猫は、ユズにミカンといったふうに、みな柑橘系の名前をもらうのです。
ライムちゃんは、好奇心に満ちた薄緑色の目をした、こんな美少女に育ちました。
ちょろちょろっとカフェの外に出てみては、風の音にビビったり。薪を倒してびっくりして逃げ帰ってきたり。そうやって少しずつ少しずつ、冒険の世界を広げていきます。
前庭まで冒険に出かけた時は、ひなたぼっこしていたやさしいララじいさんが「ひとりでここまでよく来たね」と頭を舐めてくれました。ユズおばさんも、目を細めています。
ここでは子猫は、猫たちみんなの宝物。
おおらかに見守り、出会ったら舐めてやります。やさしい先輩猫のマネをすることで、子猫は猫の世界の社会性を自然に身につけていくのです。
お外での冒険を終えたライムちゃんがカフェの店内に戻ってきました。
里山は、都会より秋の深まりが早いので、ストーブにはもう薪が燃えています。
イスの上に大好きなさっちゃんを見つけたライムちゃん。そっと背中に甘えます。
今度は前に回って、背中をくっつけて寄り添います。さっちゃんは、ライムちゃんをいとおしそうに毛づくろい。
思うようには動かない舌で、ていねいにペロペロペロ。
店内にある音は、ときどきはぜる薪だけ。耳を澄ませば、さっちゃんを枕にうとうとし始めたライムちゃんの「ゴロゴロゴロゴロ」が聞こえてくるのでした。
ダムの子になって4か月。日に日にオテンバ娘になっていくライムちゃん。
机の上や棚の上によじ登るのも、上手になりました。
でも、高い棚によじ登るのに挑戦してうまくできても、下を見たら、怖くて降りられそうもないことも。
そんな時、ライムちゃんは、高い声で助けを呼びます。
「ママぁ」
「サチママぁ」
「ハッピーママぁ」
さっちゃんも、ハッピーも、そんなライムちゃんを助けることはできません。ハラハラするばかり。
カフェのキッチンにいた麻里子ママが、ライムちゃんの声を聞きつけ、棚から下ろしてくれました。
さっちゃんやらライムやら、気を配りつつ働く麻里子ママは、大変。でも、麻里子ママは、いつも笑顔。
「どの子も、ここに持ちこまれたのは縁だったと思うの。かわいがってくださるお客様も多いし。そのかわり、私はかなり、放任主義よ」
長平パパも、言います。
「ここには、広い里山があるからね。行き場のない子に巡りあったら、少々多くても迎えてやりたい」
二人の懐もまた、里山に負けないほど自然体で広いのです。
写真と文:佐竹茉莉子
※犬猫たちの顔ぶれは、本書発行の2017年当時のものです。カフェは現在休業中。