「背番号8」
春になって突如現れた猫。
満開の桜の下、不思議そうに舞い散る花びらを見つめている。人が近づいても物怖じせず、触っても逃げない。
おそらく捨て猫だ。
何も知らない、そんな無垢な表情を浮かべて花びらを追いかける捨て猫。
幸い、桜の木の向かいに住むBさんの家で飼うことになった。
名前はハチ。
背中に"8"に似た模様がある事と、末広がりの八で幸せになってほしいから。
ところが"ハチ"は猫を被っていた。
地域の猫達に喧嘩を売りまくる……あの無垢な表情はなんだったのか。毎日傷だらけで帰ってきて日に日にボロボロになっていく。
そう、元は飼い猫、喧嘩に滅法弱い。飼い主さんもなぜ争ってばかりなのか首をひねる。
ああ、そうか。
ハチはまだ捨て猫なんだ。それを理解してBさん家という安住の地を得た彼は、ここを必死で守ろうとしているんだ……。
そして2年が経つ。
ハチは相変わらず喧嘩の日々。少し強くなったのか、前程ボロボロじゃない。幸せを願いつけられたその名前は、はたして現実のものとなったのか。
でも少なくとも彼には帰る場所があるし、もう捨て猫じゃない。
8。
背負ったその番号のように幸せを掴め。
text&photo/Keta Yokoo