「会いたい」
下町に家屋の一部に併設されている小さな稲荷神社がある。陽当たりの良い場所にあり、そこをお気に入りの場所にしている三毛猫がいた。
寒い日は鳥居を介して神社の屋根にあがりゴロゴロ日向ぼっこしている。
おーい、と呼びかけると屋根から降りてきてくれる気立ての良い猫だ。
この近辺の事情に詳しい人に聞くと500メートル程離れた公園をねぐらにしている猫らしい。猫の移動距離としてはかなり長い。そこまでして遠くの神社に通う理由があるのだろうか。
「あの子はねぇ、お百度参りをしてるんだよ、あはは」
と冗談とも本気ともつかない事を言った。
そして
「母猫がねぇ、この神社の近くであの猫を産んだんだよ。母猫はすぐにどっか行っちゃったけど」
と言う。
そうか、その記憶がここに三毛猫を引き寄せたのか。その後どういう経緯で今の公園に辿り着いたかは不明だ。ただ5年くらい前から神社に顔を出していたそうだ。
母親と一緒だった日々、それを懐かしんでこの場所に通っているのだろう、そうとしか思えない。
それがお百度参りをしているように見える…。ならばその願いとはなんなのだろう、いわずもがなだろうけど。
真摯なその願いが届けばいいね。当の三毛猫は屋根上であくびをし、思いっきり伸びをしていた。
年数から考えると百回は軽く超えて『五百度参り』くらいはしてるだろう。
ならばどんな形でもいいから叶えてやってほしいな、
お願い、神様。
僕はそんな事を思いながら『五百度参り』にちなみ五百円玉を賽銭箱に入れる。
五百円。五百円ですよ神様…絶対に叶えてやってくださいよ!