美術のなかの猫たち 猫の感触まで描く神わざ絵師 「没後300年記念 英一蝶 ―風流才子、浮き世を写す―」

英一蝶(はなぶさいっちょう)は江戸時代の元禄年間に活躍した絵師。アカデミックな狩野派に師事しながらも破門され、第五代将軍・徳川綱吉による「生類憐みの令」を皮肉った流言に関わった疑いで島流しにされるという異色の経歴の持ち主です。

吉原風俗図巻(部分) 英一蝶 一巻 元禄16年(1703)頃 サントリー美術館【通期展示(場面替あり)/本場面の展示期間:10/16~11/10】

今年2024年は没後300年。その節目に際し、東京・六本木のサントリー美術館で過去最大規模の回顧展が開催されており、驚くほど見事な三毛猫の絵が展示されています。

雑画帖のうち「睡猫図」 英一蝶 一帖のうち一面 江戸時代 17世紀 大倉集古館【通期展示(場面替あり)/本場面の展示期間:9/18~10/14】

その絵はアルバム形式のように36図をまとめたものの中の一つ。日本の伝統的な絵画は線が命で、達人ともなれば一本の線に膨大な情報量を込めることができます。一蝶もまさにそんな達人だったようです。背中の曲線、やや骨張った関節、途中で曲がったシッポの感触、毛並み……。シンプルなのに雄弁な線のおかげで、猫の触り心地をこの手に感じたかのような錯覚に陥りました。

絵具の引き方も見事で、こちらは毛色ばかりか体の凹凸まで繊細に表現されています。画面右下の赤い紐にいたっては、結び方ばかりか、どれだけ力を入れて引けばほどけるかわかるよう。

重要文化財 布晒舞図 英一蝶 一幅 江戸時代 17~18世紀 遠山記念館【展示期間:10/16~11/10】

 

投扇図 英一蝶 一幅 江戸時代 17世紀 板橋区立美術館【展示期間:9/18~10/14】

一蝶の絵は徹頭徹尾、どんな細かいところも具体的です。それは猫以外も同じで、ひらひらと舞う布にどの方向からどんな風圧がかかっているのか、踊っている人や、アクロバティックな姿勢の人が、どこに重心を置いてどこに力を入れているのか、体感的に理解できるのです。

神馬図額 英一蝶 一面 元禄12年(1699)頃 東京・稲根神社【通期展示】

墨で子犬を描けば、驚くほど少ない手数であの愛らしいふわふわコロコロ感を表現。馬を描けば筋肉の動きから重さまで伝わってきそう。一体どんな魔法を使えば、こんなふうに手触りや重さを目で感じられるように描けるのか! お目当ては猫でしたが、全ての絵が驚くほどすばらしく、神わざを見るような思いがしました。

ミュージアムショップには上品な甘さとまろやかな口どけの干菓子「ねこづくし」 ※売切れなどにより、取り扱いがない場合もあります

余韻に浸りながらミュージアムショップを眺めているとまた猫を発見! なんと和三盆の猫です。これまた猫好きのツボを心得た型ばかりです。あまたの名品・名宝を収蔵するサントリー美術館。展覧会場の外まで楽しかったです。

没後300年記念 英一蝶
―風流才子、浮き世を写す―
サントリー美術館
2024年9月18日(水)~11月10日(日)開館時間:10時~18時
※火曜休館(11/5は開館)※金曜、11/9(土)は20時まで
https://www.suntory.co.jp/sma/

※ ここで紹介した三毛猫の絵などは10月14日まで。他も展示替えあり。詳しくは美術館および展覧会HPをご確認ください。

-猫びより