「猫のいる家」。なんとシンプルで心惹かれるネーミングだろう。神奈川県川崎市のデイサービス・通所介護「猫のいる家」は、猫たちに癒されながら食事や入浴、機能訓練、レクリエーションで一日を過ごせる、全国でもまだ珍しい施設である。
デイサービスは高齢者に有り難いものだが、通所は億劫だと抵抗がある場合も少なくない。ただ、そこが「猫のいる家」だとしたら? むしろ喜んで楽しみに出かけられるに違いない。
「名前を聞いただけでここに通うのを決めたんです。私は猫好きなんだけど高齢で家ではもう飼えないので、ここで猫たちと遊んでいるんですよ。もう7年にもなります」と、利用者の女性。少人数制の施設のせいもあり、文字どおり「猫のいる家」にお邪魔したような温かい空気に包まれる。
ここは大の猫好きの代表取締役・吉田至徳(みちのり)さんがつくった施設。独立して施設をオープンする際、「猫カフェのような、猫とふれあいながら楽しく過ごせる場所があれば嬉しいだろう」と考えて企画した。現在、猫スタッフは3匹。スコティッシュフォールドの「店長」(8歳♂)と「ぽんず」(4歳♀)、キジ白の「雨」(推定7歳♂)である。
猫にはそれぞれ特徴がある。店長はちょっとシャイだ。ベッドの下などに潜り込んでなかなか出てこないことがあるので、みんなで「ちゅ~る」の歌を大合唱して「出てきて」と頼む。それでも「出てこないね」などと話していると、いつの間にかキャットタワーに上って利用者さんたちを悠然と眺めていたりする。
一方、ぽんずは、堂々たる女王様ぶり。施設の中央を縦横無尽に動き回り、「猫のいる家」のボス&広報隊長の風格だ。
そして元野良猫の雨は、まだ不慣れなこともあって出勤の機会は少ないが、なかなか会えないレアキャラとあって人気を集めている。
これら猫たちのいる部屋で、手芸や大人の塗り絵などを楽しみ、体操をして心身をリフレッシュする。いつも猫が見守ってくれるし、時には一緒に参加(?)してくれるのも励みになる。
「猫と接することで癒され、猫トークで盛り上がって会話が弾んだりするので、自然とみなさん笑顔になります。アニマルセラピー効果は抜群ですね」と吉田さん。人手不足の介護業界だが、スタッフも猫好きが集まり定着率が良いという、思わぬ効果もあったそうだ。
猫がいるだけで、笑い声が生まれる、元気になる。「私たち人間スタッフも日々がんばっていますが、猫の力には勝てません(笑)」
文・写真 鈴木美紀
猫のいる家
神奈川県川崎市中原区中丸子536-5
TEL:044-431-3327
営業時間:9:00~17:30
定休日:木・日曜
http://www.nekonoiruie.com
フリーライター。現在は三代目の猫たち「ゆきこ」と「まふぃん」にかしずく日々。著書に『現代にゃん語の基礎知識』『花のある風景』。小さなねこ図書館を開くのが夢。