白濱神社は静岡県伊豆半島東岸にあって、夏には海水浴客で賑わう白浜大浜海水浴場にほど近い。伊豆国最古の宮として知られ、正式名を伊古奈比咩命神社という。祭神の伊古奈比咩命は、縁結びと子授けの神であり、「恵比寿さん」の名で知られる三島大明神の后神でもある。
その昔、南方より海を渡ってきた三島大明神は、富士山に登って神々から土地を譲り受け、白浜の地に宮を建てたと伝わる。そして、伊古奈比咩命を御后に迎え、沖合に大島など10の島を造り上げた後、再び白浜に帰って鎮座したという。
そんな由緒ある神社の早朝、授与所が開くと白黒の猫が出てきた。拝殿や駐車場などをパトロールするとお気に入りの場所で毛繕いを始める。2019年の夏頃、ふらりと神社にやってきた猫は、そのまま境内で暮らすようになったという。宮司の原嘉孝さんによれば、鼻の下にチョビ髭のような模様があったからチョビと名付けられたそう。
「後で女の子だとわかりましたが、名前はそのままにしました」と原さん。
チョビは参拝客を本殿まで案内することもあり、SNSで知って会いにくる人もいる。参拝客にすり寄って甘えるなどして招き猫の務めを果たした日は、少し夕食が豪華になるという。授与所の前にたたずむ姿は置物の人形のよう。本物と気づいて笑顔になるお客さんもいる。
縁結びの神社に似つかわしく、境内には結婚式や記念撮影をする新郎新婦の姿も。チョビは、そんな光景を祝福するかのように見守っているかと思えば、撫でられたり写真を撮られたりして参拝客に愛嬌を振りまいたりもしている。そして人もまばらな夕方になると、再びパトロールをして授与所に戻っていくのであった。
帰り際「前世で暮らしを助けてくれた生き物は、次の世でも姿を変えて身近にいるかもしれない」という原さんのお話を思い出した。もしかしたら、ずっと前にチョビにも出会っていたのではないかという気がしてきた。離れて暮らす家族のように愛しく思えた。
チョビは2月27日に白血病のため亡くなりました。
白濵神社
静岡県下田市白浜2740
TEL 0558-22-1183
http://ikonahime.jp
小森正孝(写真・文)
1976年生まれ、愛知県一宮市出身。大阪芸術大学写真学科卒業。同大学副手として研究室勤務。現在フリーカメラマンとして猫撮影を中心に活動。写真集『ねころん』(株式会社KATZ)等。