猫だって……「約束を守り続ける」

「猫を飼いたい」それが、ワタルさんの最後のわがまま。そして、迎えられたのは、沖縄からやってきた女の子でした。

わたしの名は「しずか」。「うんとかわいらしい名前にしよう」って、ドラえもんのマドンナ「しずかちゃん」と同じ名をつけてもらってから18年半。お父さんもお母さんも、私のこと、とっても大事にしてくれるわ。

わたしね、今も、お兄ちゃんがこの家にいるみたいな気がするの。

お兄ちゃんが「末期がん」と宣告されたのは、まだ21歳の時だった。お父さんとお母さんは、残された日々を悔いなく過ごさせてやろうと考えて、願い事を尋ねたの。

返事は「猫を飼いたい」だった。お父さんたちは、ペットショップでかわいい仔猫を買おうとしたけれど、お兄ちゃんは言ったのよね。

「違うんだ。ノラ猫とか捨て猫とか、そんな猫を一匹しあわせにしてやりたいんだ」

そして、沖縄で保護されたばかりのわたしが迎えられたの。お兄ちゃんはわたしを、小さな妹ができたみたいにかわいがってくれたわ。

寝る時も寄り添って眠った。お兄ちゃんがトイレに入れば、わたし、ドアの前で待ってた。

わたしが避妊手術を終えて帰ってきた時は、「傷つけなくてもいい体に、勝手に傷をつけてごめんね」って、そっと撫で続けてくれた。

そのうち、お兄ちゃんは、おうちより病院に入っている時間が長くなってきて、とうとう戻ってこなかった……。

あの日から、15年。わたしは、19歳のおばあちゃん猫になったけど、ふっくら体型でまだまだ元気。お父さんもお母さんも元気に穏やかに暮らしているよ。

写真立ての中のお兄ちゃんも、いつまでも若くて笑顔のままだね。

お兄ちゃん、わたし、知ってるよ。お兄ちゃんが「猫を飼いたい」って言ったのは、わがままじゃなかったことを。

自分がいなくなった家で、お父さんとお母さんが笑顔を忘れて悲しい顔で過ごさないよう、わたしのこと、新しい家族に迎えてくれたんだよね。

「ボクがいなくなっても、みんなで仲良くね」「任せといて」

お兄ちゃんとそっと交わしたあの約束を、わたし、ちゃんと守ってる。安心してね。

猫だって……。
佐竹茉莉子・著

定価:1320円(税込)
単行本(ソフトカバー)
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※このエピソードは、本が発行された2018年当時のものです

写真と文:佐竹茉莉子

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