ゆめくんは、ニンゲンが大好きなおっとりやんちゃ猫。愛され顔のヒミツは、6人のママが降り注いでくれた愛情にあるようです。
「ゆめって、ほんとに愛され顔だね〜」
ボク、いつもそう言われるんだ。おうちのママからも、ボクに会いにくるママたちからも。
そう、ボクには、産んでくれたママのほかに、人間のママが6人もいるの。拾ってくれた、さとママ。交替で育ててくれた、4人のママ。ボクをおうちの子にしてくれた、ゆうこママ。
みんなで「ゆめ坊、すくすく大きくなあれ」って育ててくれたの。
ボクの左目、仔猫の時にウイルスが入ったせいでちょっと膜がかかってるの。だから、何かをよく見ようとすると、首がかしぐの。その様子がまたかわいいんだって。
ボクを産んだママはノラだったんだ。真夏の大雨の時、生まれて間もないボクをくわえて避難したのが、農家のビニールハウスの中。ボクを濡れないとこに置くと、土砂降りの中を食べ物を探しに出て行った。
そして、それきり帰ってこなかった。
ボクは、「ママあ、ママあ」って、三日三晩泣き続けた。その声を聞きつけたのが、農家に野菜を買いに来てた、さとママだったの。
「親猫は通りで車にはねられてた。仔猫はずっと鳴いてるけど、小さすぎて助からないよ」
農家の人たちはそう言ったけど、さとママには見捨てることができなかったんだって。
「生きたい! 生きたい!」って、ボクが泣いてるように聞こえたって。
さとママは家で猫を飼うことができなかったから、携帯であずママに相談したの。あずママも、猫を飼えなくて、るいママに相談。
「みんないっぱいいっぱいだけど、持ち回りなら何とかなる。とにかく力を合わせて育てよう」って、すぐ決まったの。
あずママのおうちで体を温めてもらい、シリンジでミルクも飲ませてもらったよ。それから、病院へ連れてかれた。栄養失調と低体温で、ぎりぎりの命だったって。両目失明になるかも、って言われたんだ。
あとふたりのママも加わって、交替で、ボクの通院とお世話が始まったよ。拾われた時は不安でいっぱいだったけど、どのママもやさしくて、ボクは安心しきって甘えた。
「どんどんかわいくなるね」って、ボクを囲んで、ママたちはニコニコしてた。
ボクの右目は回復したけど、左目は、いつまでもぐしゅぐしゅしてたの。「里親探しは難しいかもね」ってみんなで話し合ってた時に、ゆうこママが遊びに来たんだ。
ゆうこママは犬派で、猫を飼ったことがなかったの。でもボクを見てたら「猫もかわいいな」って心が動いたんだって。高校生だった下のお兄ちゃんも「このまま目が見えなくたって、この子をうちの子にしよう」って言ってくれたの。
ゆうこママのうちの子になったボクは、バリバリの犬派だったパパも猫アレルギーの上のお兄ちゃんも、たちまち陥落させちゃったよ。パパは会社に出かける時、きまって「じゃあね、ゆめ、行ってくるよ」って言うんだ。
あれから、2年。ボクんちには、いつの間にか保護猫が増えてる。雨の日に捨てられてビルのすき間で泣いてた「ひめ」。スーパーの前でパパに保護された「あき」。
パパは出かける時、「じゃあね、ゆめ、行ってくるよ。ひめ、行ってくるよ。あき、行ってくるよ〜」って必ず声をかけるの。探してまで。
ママたちは、しょっちゅう集まっては、こんなこと言い合ってるんだ。
「ゆめみたいに愛らしい子っている?」
「ひめも、あきもよ。みんな、保護したての時はショボくれ顔だったのに」
「やっぱり猫って、愛されたら、安心して、愛され顔になっていくんだね〜」
※このエピソードは、本が発行された2018年当時のものです
写真と文:佐竹茉莉子