猫との一人暮らし 緊急時を救ってくれた人やモノは?

ミミのお気に入りの場所は窓際のクッション

 

神田洋佑(ようすけ)さんは大阪市北区の鴨料理専門店「AnaTra(アナトラ)」のオーナーシェフ。自宅には2匹の愛猫がいるが、「一人暮らしなので、帰省などで家を数日以上空けるときには、近所の友人に猫たちの世話を頼んでいます」。

合鍵を預けられるほど信頼する友人は猫を飼っていたことがあり、ゴハンの量など細かな引き継ぎでも困ったことはなかった。

ミミ(左・3歳♀)とマフ(4歳♂)。「兄は猫アレルギーなので、近寄れませんが……」

 

だが昨年のGW前、神田さんはバイクの事故に遭ってしまう。右足の4箇所を複雑骨折する重傷で、即ICU(集中治療室)に運ばれた。兄が臨時休業の報せや事務的な処理を進めたが、神田さんの頭を過よぎったのは、「うちの子、どうなってしまうんだろう
……」。医師から肉親以外の知人に連絡を取る許可を得たものの、「どうやって医師や友人に説明したのか記憶がない」状態だったと当時をふり返る。

猫たちの無事に安堵できるようになったのは、スマホの使用が許される一般病棟に移ってからだ。

日中の不在に猫が退屈しないよう猫グッズを揃えた部屋は、神田さん曰く「猫ハウス」

 

もうひとつ合鍵を預けていたのは電車で通える距離に住む叔母だった。しかし退院できる見込みは立たず、二人だけに負担をかけたくない中、重宝したのが電子キーだ。

これはシンプルなIoT(インターネットで家電などのモノと繋ぐ仕組み)で、スマホから暗証番号や顔認証を設定し、解錠することができる。

最終的には1ヶ月にわたった入院中に、4人が部屋に入って猫の世話をした。また猫が近づくとセンサーで反応する撮影機能付きの自動給餌器で、猫たちがゴハンを食べる様子や健康状態をリアルタイムで確認できた。

センサー付きの給餌器。写真や動画も撮れます

 

もともとフードは多めにストックしており、猫たちの健康手帳は必ずキャリーケースのポケットに入れ、それらを誰に伝えても分かる場所に収納していたことも安心材料だった。

夜間の救急に対応する病院の連絡先は、神田さん自身も慌てないように机の定位置に置いている。

フリーズドライのシラスを狙うミミ。食べたい、じゃれたい!

ところで飲食業は日中の不在が多い。業界の一人暮らし仲間数人とは、自身が駆けつける立場になることも想定して、連絡網を共有している。

「普段からお客さまの機微に敏感な人が多い職業なので、同業者同士の窮地となるとより察しが早いです」という。

そして2ヶ月の自宅療養中は、近年増えている災害に備え「猫と一緒に生きる防災」をあらためて考える機会となった。物置部屋には猫を飼う友人用の防災グッズも充実させつつある。

退院でもっとも楽しみにしていたのは、愛猫との再会。「それが拍子抜けするくらいに、いつも通りのお迎えでして……でも僕の大切な家族へ、皆が優しく接してくれたからだと感謝しています」。

信頼関係や備えがあってこそのIoTの活用は、一人暮らしを支えるヒントになりそうだ。

(文・写真 堀晶代)

Hori Akiyo
日仏を往復するワイン・ライター。著書に『リアルワインガイド ブルゴーニュ』(集英社インターナショナル)。電子書籍『佐々木テンコは猫ですよ』がAmazonほかネット書店で好評発売中。

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