この世界の片隅で、ネコ。EP:4「未亡猫」

「未亡猫」

古い地蔵堂がある。

近くの方々がお世話をしていていつも綺麗に掃除されている。このお地蔵様にすがっているかのような猫がいた。

サビの雌猫で夕方になると必ず現れた。

もともとは地蔵堂から少し離れた空地で、ボス猫と一緒に暮らしていた。

その頃は気が荒くて、まるで姐さんのようにボス猫以下を怒鳴りつけていた。

しかし空地に家が建ち始めボス共々、今の地蔵堂の近辺をうろつく様になった。

ある日突然、ボス猫は姿を現さなくなった。伝聞ではボス猫によく似た猫が車道を渡るのを見たという。

もしかしたら。

季節は巡り一年がたった。

だけどあのサビ猫は地蔵堂のあたりを離れない。まるであのボス猫が帰ってくるのを信じているかのように。

そして堂の中に入り込んで静かに座っている事もあった。

なにかを願うようにじっと目を閉じて。

次第に地蔵堂をお世話されている方々から「未亡人」と言われるようになった。

皆、事情を知っている。

ああそうだ、つまり"未亡猫"なんだ。

未だ亡くなってない猫。

口に出して言ってみると可哀想だが少しだけ合点がいった。あのボス猫と添い遂げたのだ。
昔、人間のお墓には夫に先立たれた存命の妻の名を朱で刻む風習があったという(※諸説あり)。

ボス猫が命を落として誰かが供養をしてくれていたら、そこに朱色でサビ猫の名前も刻まれるのだろうか。

そんなことを考えていた。

text&photo/Kenta Yokoo

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