「兄弟」
あるお寺に仲の良い2匹の猫がいた。

ジュンという兄貴分とイチロウという弟分。

血の繋がりはないがジュンはイチロウが仔猫の頃から可愛がったので兄貴を慕っている。

ジュンは桜の木によく登る。
春になり開花すると花見をしている様な素振りが近所で評判となり「花咲か猫」と呼ばれていた。

ところが春間近、ジュンは不慮の事故で虹の橋を渡ってしまった。
そしてイチロウが迎えた初めての春。

満開の桜の下、残されたイチロウは兄貴を真似るようにして木登りに挑戦するが、怖いのかへっぴり腰で上手く登れない。

登ろうとしてはズルズル、登ろうとしてはズルズル…木に爪を立ててゆっくり落ちてゆく。そして桜は徐々に散り始めていく。結局、イチロウは木に登れずじまいだった。
翌春。
木登りが大分上手くなったイチロウ。ジュンがいつも登っていた桜の木に挑戦する。

突然いなくなった兄貴分が好きだった桜。今年も満開の花を咲かせた。
そしてイチロウは兄貴の様に桜の木に登り切った。だけど。なぜか悲しげな表情だった。

春のさわやかな風が吹く。ひらり、と桜の花びらが舞う。
桜も弟も彼を思い出しているのだろうか。「花咲か猫」はもう、いない。
text&photo/Kenta Yokoo




