「暴君、クロ」
「チィチィチィ……」
か細い鳴き声が空き家から聴こえる。
明らかに仔猫の鳴き声。
でも何処に居るかわからない。
鳴き声はどんどん小さくなっていく。
これは大変だ。
レスキュー隊もやってきた。
壁と壁の間に挟まった場所から、黒い仔猫が発見された。
それから何か月か経った。
空き家のすぐそばのお寺さんでスクスク育つ。
クロと名付けられた。
これが相当ヤンチャ。
家の障子は破るわ至る所に爪をたてて傷つけるは……。
外に出ると誰かれ構わず喧嘩を売り唸り声をあげる。
カメラのレンズを向けると、敵だと思っているのか噛みついてきた……。
天性の暴れん坊。
まさに暴君。
あのか細い鳴き声が信じられない……。
だけど動物病院に行く時、ケージに入れる際、クロは異常なまでに拒んだ。
逃げまくったり引っ掻いたりして、もう大変。
ああ、そうか。
壁と壁に挟まれた仔猫の頃の記憶がそうさせるのか。
閉所恐怖症の猫。
結局、飼い主さんに抱っこされ安心したのか眠りはじめウトウトしてるうちに病院に到着、用を済ませた。
暴君クロ。
相変わらず暴れる毎日。
だけど弱さだってある。
誰だってそうなんだ。
text&photo/Kenta Yokoo