「招き猫失格」
この街の台所。
闇市から発展したその商店街は、大学にも近く活気にあふれている。その入口にある八百屋に出入りする猫がいた。
かなり情けない表情の彼は、店の招き猫……でもない感じで店をただウロウロしているだけ。
八百屋さんだから商品に手をつけるでもなく、店主さんも気に留めていない。
すぐ近くにある雑貨屋で暮らす弟は、立派な招き猫。
マスコット的存在。
人気の差が激しい。
そんな彼は自分の不甲斐なさを愚痴りたいのか、雑貨屋に来て何か話してる。
なあ弟よ、どうやったらお客さんを呼べるんだい?
俺、役立たずじゃないかな?
だけどこの兄貴、ネズミ捕りの名人。
店主さん曰く
「商品をネズミがかじるからあいつ(兄貴猫)は絶対に必要。助かってるよ」
猫にとっての仕事は招き猫だけじゃない。
そう、猫の本分はネズミ除け。
今日も相変わらず自信なさげな表情で八百屋をただうろつく兄貴。
だけどそれが仕事。
俺は何もしてないと思ってるかもしれない。
けれど何もしてない事が存在価値を否定する訳じゃないんだ。
招かない猫。
そんな稼業もある。
text&photo/Kenta Yokoo