この世界の片隅で、ネコ。EP:42「しあわせ」

「しあわせ」

下町の入り組んだ路地をアリーという元野良猫が闊歩している。最初は室内飼いだったが、あまりにも外に出たがるので保護された現在も外を自由に行き来している。

アリーの家のすぐ近くにチョビというこれまた元野良猫がいて、よく2階のベランダに座っているのを見かける。こちらは飼い主さんの方針で、保護された現在は完全室内飼いだそうだ。

2匹の野良時代、アリーはチョビのお姉さんのような存在だった。チョビがまだ子猫だった頃、面倒を見ていたらしい。

すぐ近所だがそれぞれ違う環境にいる。まあ、血の繋がりのない姉弟みたいなもんだ。

たまにアリーは弟の家の前でゴロゴロしている。

不思議なものでチョビは姉が来た事に気づきベランダへ出る。

真下に姉、真上に弟。

姉はゴロンゴロン、パタンパタンと道に転がる。まるで「いいでしょ?」と見せつけんばかりに。弟はベランダから首を大きく出して悔しそうに姉を見ている。

大きく出しすぎ首が柵に挟まって「だ…だずげでー…」となることもある。

姉は弟をからかう様にやってきて、飽きたらどこかへブラブラするか、家に帰るのだろう。姉が去った後、弟はしばらくベランダの手すりに登り遠くを見ている。涼しい風が吹く。

再開発された駅前の高層ビルが見える。ここは彼の素敵な庭だ。

そうそう、飼い主さんの話だとチョビは一度、車に轢かれかけたらしい。

それ以来、車を見るとどこかに隠れるそうだ。外にも積極的には出たがらない。(だけど2回ほど脱走したそうだ、すぐに帰ってきたけど)

姉と弟、どちらが幸せか、と問われると、どちらも幸せなんだろう。そもそも比べられるものではない。

あくる日。またアリーがチョビのいるベランダの下でゴロンパタンとやっている。弟は"あ、ねーちゃんが来た!"とベランダへ出て柵から顔を出す。そんな日常。

またチョビの首が柵に挟まって「ぐ…ぐるじー…」となるのはご愛敬だ。

text&photo/Kenta Yokoo

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