秋生まれのライムちゃんにとって、初めての春がやってきました。春色の里山を案内してもらいましょう。
「不思議の国のアリス」に出てくるせっかちウサギのように、とっとことっとこ菜の花の咲く野道を急ぐライムちゃんに会いました。大きくなったこと!
「ライムちゃん、どこいくの」
「春の匂いをかぎに」
そこで、ライムちゃんについていくことに。
道中、陽だまりでゴロンゴロンしているレモンおばさんに出会いました。かっちゃんは、岩の上で見張り兵みたいに座っています。ふたりとも、ダムの長老猫です。
「おばさん、こんにちは」
道でぱったり出会ったら、若輩猫から先に鼻をくっつけて挨拶するのが、猫社会のしきたりです。
ヤマザクラは、今が満開。春は、猫たちの気分を、なぜかハイにします。
しっぽがピンと立っているのは、気分のいい証拠。
ハイな気分のライムちゃんは、杉の大木に一気登り。どうやって降りるのかと思ったら、ズルズルズルと、上手にそのままずり落ちてきました。
木登りに夢中になるのは、1~3歳の若い子です。体がまだ軽いからでしょうか。
バジルお兄さんにも道で会って、鼻と鼻でご挨拶。長い毛並みをさっそうと春風にそよがせて、いつ見ても、カッコいいお兄さんです。
キャンプ場の広場には、大きなヤマザクラがあります。その木にも、ライムちゃんは勇んで登りました。
人間にとっては、桜は下から遠くから眺めるもの。でも、ダムの猫たちにとっては、桜は、登って、里山を眺めるものなのです。
ルンルンルン。そんな楽しそうな鼻歌が聞こえてきそうなライムちゃんの足取りです。
途中で、またレモンおばさんに会って、お鼻とお鼻で挨拶して、ああ、いそがしい。とっとことっとこ。 先を急ぎます。
ライムちゃんのお気に入りの休憩場所。それは、隣のおばあちゃんが育てている野菜の畑です。野菜の間を進んでいくと、ちょっとした探検気分。
お日さまにあたためられた土の上は、とってもいい気持ち。
あれ、横を見たら、ミカンおばさんも、野菜の間でくつろいでいました。
ひとしきり、野菜畑で、ウグイスの声を聴いて、まったりした後、ライムちゃんは帰路につきました。小腹がすいてきたのです。育ち盛りですもの。 春って、どうして歩くだけで木に登るだけで、こんなに楽しいのかな。
春って、どうしてこんなにおなかがすくのかな。
猫小屋の前では、ミカンおばさんが先回りして、迎えてくれました。
さっちゃんは、ライムちゃんのように歩き回ることはできないけれど、麻里子ママと、里山を見渡せる場所にいました。さっちゃんも、全身で里山の春を楽しんでいます。
写真と文:佐竹茉莉子
※犬猫たちの顔ぶれは、本書発行の2017年当時のものです。カフェは現在休業中。