この世界の片隅で、ネコ。EP:79「コンプレックス」

「らっしゃい、らっしゃい」

そんな懐かしい声が聞こえる商店街の八百屋に看板猫がいた。いや、看板猫というより客引き猫か。

彼女を触ったり話しかけたりしているうちに、ああ、そういえばネギ買い忘れていたな…という具合にうまく商売に繋げる、そんな猫。

実は彼女には尻尾がない。過去に虐待を受けて切られてしまったそうだ。当然ながら、人間を怖がるようになった。また尻尾がないのがコンプレックスになっているのか、他の猫も避けるようになった。彼女はひとりぼっちだった。

そんな彼女に我慢強く接したのが八百屋のおかみさん。人間も猫もいなくなった深夜に餌を置きに行き、遠くから食べ終わるのを見守っていた。

彼女も見守られてるのに気付いていたのだろう、半年ほど経つとおかみさんに心を許し撫でても大丈夫なまでになった。

ただ他の猫は相変わらず苦手。やはりコンプレックスがあるのだろう。

ところがおかみさんはあえて尻尾の付け根をポンポンとよく叩いた。初めは嫌がる素振りを見せていた彼女もだんだんと平気になった。

その事について聞いてみたら

「野菜だって不揃いなのがあたりまえ。尻尾がなくたって何も恥じることはない。そう喋りかけながら叩いてたんだ」

と照れながら話してくれた。彼女にもその想いが通じたのか、徐々に人間にも猫にも臆さなくなっていった。

「らっしゃい、らっしゃい」

猫の恩返し。今日も彼女は店先に立ちお客さんを呼び込んでいる。

TEXT&PHOTO/KENNTA YOKOO

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