この世界の片隅で、ネコ。EP:57「キノボリスト」

「キノボリスト」

無謀とも思える程、高い木に登りまくる猫がいる。

まだ1歳にもなってないのだが大人顔負けの木登り技術。本能の赴くままに木に登っているのだろう、すごい勢いで頂点まで登る。

降りれなくなる事は今までなかったが、それに近い事は度々あった。見ていてハラハラ…。

登山家を"アルピニスト"と呼ぶが、"アルプス"のような高い技術を必要とする山に登る事から来ているという。

なら彼は"キノボリスト"だろうか。

そんなキノボリストがある日、巨大な楠木に挑んだ。挑んだというより一瞬にして昇りつめた。

"登"という漢字より"昇"の方がピッタリな程の速さだった。昇竜のごとくに。

しばらく下界を見下ろし、気分は上々そう。なんか余裕だなぁ、と見ていた。だが徐々に顔色が変わってきた気がした。

登るのは簡単なんだよね。さあ、これからが大変。ネコ・キノボリストに必要なのはどう考えても降りる技術だ。

ソロリソロリと後ろ足の爪を木の皮に食い込ませて…おっと!!落ちそうになった…危ない危ない!!

 

ソロリソロリ…ズルズルとすべり落ちるようでもあり、スルスルと軽やかに降りているようでもある。

そんな事を繰り返しながら30分はかかっただろうか…最後にひょいッとジャンプして無事に木登り終了。登り1分、降り30分。行きはよいよい帰りは怖い…。見てる方からしたらそうだが、本人はどこ吹く風。満足そうな顔だ。

なぜそんな高い木に登るのかと尋ねたら、かの有名な登山家のように

「そこに木があるから」

と答えるんだろうか。ネコ・キノボリスト、ここに誕生す。

text&photo/Kenta Yokoo

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