この世界の片隅で、ネコ。EP:36「シンボル」

「シンボル」

しゃちほこのような猫がいた。

というかしゃちほこそのもの。

あるお宅の玄関の上に鎮座して…何をしているんだろう。

監視かな。

まるでそれが使命とでも言っているかの如く、今日も座っている。休憩時間には陽当たりのいい屋根に移動して友達と遊んでいる。だいたい玄関か屋根の上にいるので地上に降りる事が少ない。

彼は身だしなみに厳しい。細目に毛繕いをするので毛ヅヤがとても良い。ちょっと過剰なぐらいの清潔好き。なんというか、ホテルのベルボーイを思い起こさせる。

色々興味がわいてこのお宅のおばさんに聞いてみたら、半ば冗談交じりにこう返ってきた。

「あれはこのうちで自分が一番偉いと思っているんだ」

笑いながらそう答えてくれた。ああ、もしかしたら世帯主だとでも思っているのだろうか。

しかしこうも思う。

自分が一番偉いと思う以上に、自分がこのうちの代表だと思っているのではないか。だから玄関の上でベルボーイのように振舞い、常に見られているからと身だしなみにこだわっているのだ。

シンボルとして、皆の模範となるべく他人様に恥ずかしくないようにしているのだ。

そう考えて改めて玄関上に鎮座する猫のしゃちほこを見ると、なにか少しだけ神々しい。

しゃちほこは火事の際に水を吹き出し鎮火させる守り神だという。もしもこのお宅が火事に見舞われたらどうするのだろう、なにしろ一番偉くて守り神なのだ。

…たぶん真っ先に逃げるんだろうなぁ。

text&photo/Kenta Yokoo

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