この世界の片隅で、ネコ。EP:15「屋根上娘」

「屋根上娘」

長屋の屋根上で子育てをする三毛猫。

子猫は地上を知らない。
餌は母親が運んでくる。

まるでひきこもりの子供だが、屋根上は外敵に襲われる危険が少ない。

箱入り娘ならぬ屋根上娘だ。

ただ屋根の間を飛んで移動できないと活動範囲が狭くなる。

必然、母親はジャンプを教える。

雛の巣立ちのように、恐る恐る母の真似をしていたがそこは血が騒ぐのか、すぐに危なげなく屋根をジャンプする。

これで探検できる場所が増えたね。

長屋の物干し台。

洗濯物を干している住民を不思議そうに眺めている。

住民も突然現れた子猫にビックリしていたが、餌を置いてあげたりして可愛がった。

そして巣立ちの時とでもいうのか、彼女が初めて地上に降り立ったのだ。

屋根上では我が物顔で振舞っていた彼女も地上では借りてきた猫の様におとなしくビクビクしている。

地回りの猫がきて彼女の匂いを嗅いで品定めする。

驚き脱兎のごとく屋根上へ駆けあがって逃げた。

初めての母親以外の猫。

怖かったのだろう。
初めはそんなものだよね。

地上の世界がどんどん広がっていく。

想像より遥かに広い新世界。

好奇心旺盛な子猫にとり冒険の日々。

そうやって成長していく。

友達が出来た。

自慢げにジャンプを披露して、まるで

「ここまでおいで」

とでも言うように屋根上に友達を誘う。

地上の世界から天空の世界へ。
彼女とは逆の新世界はどう映ったろう。

広い地上と高い空。

どちらも可能性でいっぱいだ。

やがて母になり、子が出来たらやはり屋根上で子育てをするのだろうか。

今日も屋根上娘は華麗にジャンプしている。

text&photo/Yokoo Kenta

-コラム
-, ,